【2026年】中国ライブコマースの構造転換 — トップKOL一発依存の終わりと、日本ブランドの勝ち筋

2026年 中国ライブコマースの構造転換 トップKOL一発依存の終わりと日本ブランドの勝ち筋

中国のライブコマース(直播電商)というと、いまでも「有名なトップKOL(インフルエンサー)の配信に商品を載せてもらい、一気に売る」というイメージが根強く残っています。しかし2024年から2026年にかけて、その構図は静かに、しかしはっきりと変わりました。トップ一発に賭ける戦い方は、もはや市場の主流でも合理でもなくなってきています。本記事では、検証できた公開データをもとに「何がどう変わったのか」を整理し、日本の中堅ブランドが天猫国際(Tmall Global)でどう戦うべきかを考えます。ライブコマースそのものの基礎や始め方は越境ライブコマース完全ガイドにまとめていますので、本記事はその2026年時点のアップデートとしてお読みください。

この記事のポイント

  • 「トップKOLに一発で賭ける」時代は終わり、主役はブランド自社ライブ(店播)へ移った。トップ配信者が市場GMVに占める比重は一桁台まで縮小している。
  • KOLライブは費用比率(費比)が高く赤字になりやすいが、手数料はカテゴリで大きく異なり、海外ブランドは低め(おおむね8〜15%)に立てるため、中国新興ブランドほど不利な構造ではない。
  • 認知づくりの主戦場は小紅書(RED)の「種草」へ。頭部インフルエンサーへの一括投下ではなく、ジャンルの合う中小の発信者を束ねる設計が主流。
  • 2026年はAIによる配信(AI数字人)の普及と新規制が重なり、AIであることの明示や届出が義務化。コンプライアンス体制を持つブランドにはむしろ追い風。
  • 日本ブランドの勝ち筋は「認知(小紅書)→刈り取り(天猫国際の旗艦店ライブ)→継続(会員・私域)」の3層設計。市場が向かう方向に沿った順張りが無理がない。
  • 派手な数字ほど裏取りを。ライブのGMVは返品前・注文ベースの自己申告や推計が多く、定義(口径)で数倍ぶれる。

何が変わったのか — 「トップKOLに賭ける」時代の終わり

中国のライブコマース市場は、成長率が数百%だった爆発期を過ぎ、前年比10%台前半へと鈍化した成熟局面に入りました。第三者推計では2024年の直播EC市場は約5.3万億元規模とされますが、集計の基準(口径)によって推計値には2〜3倍の開きがあり、絶対値は幅を持って見るのが実態に近いところです。重要なのは規模の数字そのものより、市場の構造が二段階で変わったことです。

ひとつめが「去頭部化(トップ配信者への一極集中からの脱却)」です。プラットフォーム側がミドル層の配信者やブランド自社の配信へ意図的にトラフィックを配分するようになり、トップ配信者(スーパーKOL)が市場全体に占める比重が下がりました。ふたつめが、後述するAIによる配信(AI数字人=デジタルヒューマン)の広がりと、2026年に本格化した規制です。この2つが重なって、「誰か一人の有名ライバーに賭ける」モデルの相対的な優位が薄れてきた、というのが2026年の中国ライブコマースの現在地です。

数字で見る"去頭部化" — トップ配信者の失速とブランド自社ライブ(店播)の台頭

まず、トップ配信者そのものの失速です。2025年の618(6月18日商戦)における初回ライブのGMV(流通総額)を前年同期と比べた第三者推計では、広東夫婦が約−86%、琦儿(チーアル)が約−88%、潘雨润が約−77%といった大幅な落ち込みが報じられました。美妆(メイク・スキンケア)の代名詞だった李佳琦(リー・ジアチー)も、予約初日のGMVが前年の水準からおおむね半減したと伝えられています(出典:36氪「静かな618」)。これは「トップが消えた」という話ではなく、トップ層の内側でも銘柄によって差が開き、全体としての存在感が縮んだ、と読むのが正確です。

その比重を象徴するのが、抖音(Douyin)でトップ達人(100万フォロワー超の配信者)が市場全体のGMVに占める寄与が、2024年時点で約9%まで圧縮されたという推計です(自己申告・リークの数値)。かつて市場を牽引したトップ層の取り分が、一桁台にまで下がったことになります。

入れ替わりに主役へ躍り出たのが店播(てんぼ=ブランド自社ライブ)です。抖音の2024年GMV内訳(自己申告・リークの数値)は、棚型EC(货架)が4割超、店播が約3割超、達人播(外部の配信者による販売)が約3割とされ、店播が達人播をGMVで2年連続上回ったと報じられています(出典:CBNData ほか)。ライブで稼ぐ事業者のうち約7割が店播中心だという集計もあります。化粧品では特に自社配信への移行が顕著で、抖音の美妆TOP20のうち13ブランドで「自社配信>外部配信者による販売」となり、韩束(ハンシュー)や珀莱雅(プロヤ)で自社比率が半分を超えたとされています(品観網ほか)。

意味合いはシンプルです。外部配信者による販売(達人播)は「イベント的な一発・在庫消化」の場、ブランド自社ライブ(店播)は「日常運用の主力であり、顧客と利益を自社に積み上げる」場へと役割が分かれ、主役が後者に移ったということです。

なぜKOLライブは赤字になりやすいのか — 費比と手数料(佣金)の構造

トップ依存が退いた背景には、はっきりしたコスト構造の問題があります。ライブの費比(ひひ=出演枠代+手数料+広告費を売上で割った比率)は、食品・美妆・服飾で最低でも35%、一部では50%を超えるとされます(出典:投中網)。粗利50%の商品でも、費比35%にプラットフォーム手数料や物流15%が乗れば、利益はほぼ残りません。順位表に載るために赤字を承知で出稿する「亏本上榜(赤字で順位を買う)」が起きるのはこのためです。

ここで見落とされがちなのが、手数料(佣金)はカテゴリで大きく違うという点です。

カテゴリ手数料の目安コメント
海外の有名ブランド(国際大牌)の美妆おおむね8〜15%ブランド力が強いほど低い。複数ソースで一致
中国の新興ブランド(国货新鋭)の美妆30〜40%、高いと50%超・上限70%の報道も知名度を買うために高い手数料を払う構図

つまり「亏本上榜(赤字で順位を買う)」に苦しみやすいのは、高い手数料に広告費と返品が重なって費比が50%を超えやすい中国の新興ブランドです。海外ブランドは本来、手数料8〜15%の「有名ブランド側」に立てるため、赤字構造がそのまま当てはまるわけではありません。ここが日本ブランドにとって重要な分岐点になります(→後述)。

なお、出演枠代(坑位費)についてよく「1枠800万〜2000万元」といった数字が引用されますが、これは合算額の取り違えによる桁違いで、実態とは異なります。トップ配信者でも1枠は数万〜数十万元、専場(1回貸切)でようやく百万〜数百万元というのが正しい桁感です(複数の事業者証言・界面ほか)。派手な数字ほど裏取りが必要な領域です。

認知は小紅書の"種草"へ — 頭部一発でなくKFS+腰部・KOC

「刈り取り(成約)」がブランド自社ライブへ移る一方で、「認知形成」の主戦場として存在感を増しているのが小紅書(RED)です。小紅書での認知づくりは「種草(欲しい気持ちの種をまくこと)」と呼ばれ、ここでも頭部インフルエンサーに大金を張るゲームからは離れつつあります。REDマーケティングの全体像は企業向けRED(小紅書)マーケティング完全ガイドにまとめていますので、ここでは2026年の実務の勘所に絞ります。

小紅書の公式の広告フレームはKFSと呼ばれます。K=KOL(内容の核をつくる)、F=Feeds(フィード広告で低コストにリーチを広げる)、S=Search(検索で購買意図層に的確にリーチする)の分担です。そしてブランドと発信者(博主)を正規につなぐ入口が蒲公英(プーゴンイン)プラットフォームで、ジャンル・フォロワー数・価格で発信者を絞り込み、広告であることの正規申告(報備笔記)もここで行います。虚偽の種草やサクラ(水軍)は規制対象であり、蒲公英での正規申告が守りの定石です。

裾野が分散していることも数字に表れています。小紅書では1回の配信(単場)で1,000万元超のGMVを出す配信者(買手)の数が2024年に前年比2.6倍に増え、上位100人のうち、フォロワー50万人以下が67人、10万人以下も19人を占め、85人が新規ランクイン、その多くが直近1年半以内に配信を始めた実質新人だったとされます(小紅書公式データ・newrank)。「フォロワーが少なくても高単価で刺さる」構造で、たとえば章小蕙(ジャン・シャオホエ)は小紅書で初のGMV1億元超を、平均客単価1,695元という高単価で記録しています(複数媒体が一致)。高単価の日本スキンケア・健康食品との相性は、この点で良好です。

AI数字人と2026年の新規制 — コスト低下とコンプラ義務化

2026年のもうひとつの変化が、AIによる配信(AI数字人=デジタルヒューマン)の広がりです。京東(JD)は自社のデジタルヒューマン配信ツールを無料開放し、618期間には利用事業者が大きく伸びたと発表しています。人件費を抑え、24時間・多品目に対応できるため、中小・海外ブランドがブランド自社ライブを始めるハードルを下げる効果があります。ただし、こうした「◯倍」といった伸びの多くは配信本数の増加を指すもので、成約やLTV(顧客生涯価値)への寄与とは分けて見る必要があります。低い基準からの増加である点にも注意が必要です。

そして見落とせないのが規制です。中国では2026年に入り、ライブEC全般とAIの両面でルールが整備されました。

規制時期要点
直播電商監督管理弁法2026年2月施行ライブECの「野蛮な成長」期の終わり。配信者(主播)の実名・資質、虚偽宣伝の取り締まり強化
人工知能擬人化互動服務管理暫行弁法2026年4月10日公布/7月15日施行AI(自然人でない)と対話している旨をユーザーへ明示する義務、アルゴリズムの備案(届出)義務

加えて、AI生成コンテンツの標識(ラベル)義務にもとづき、違反したアプリやライブが是正・下架(掲載取り下げ)の対象になった摘発実績も公表されています(国家網信弁の公告)。要するに、AI数字人は「無人で放置」できず、AIであることの明示・備案・真人値守(人による監視)が前提になりました。これは一見ハードルに見えますが、コンプライアンス体制を整えられる正規ブランドにとってはむしろ追い風です。裏返せば、こうした対応まで含めて代行できるパートナーの価値が上がった、ということでもあります。

日本ブランドの勝ち筋 — 「認知→旗艦店→私域」の3層設計

ここまでの構造変化をふまえると、日本の中堅ブランドが天猫国際で取るべき戦い方は、次の3層に整理できます。ここでいう「私域(しいき)」は、会員やSNSなど自社で直接つながれる顧客基盤のことです。中国ブランド(国货)と同じ「トップ配信者に高い手数料を払って順位を買う」高コスト戦は、負け筋を後追いする行為になりかねません。

役割やること
①認知小紅書で「種草」する頭部KOLの高額枠でなく、ジャンルの合う中堅発信者・KOC(消費者に近い発信者)を束ね、KFSで内容→リーチ→検索まで設計。広告であることの正規申告(報備笔記)は蒲公英で行う
②刈り取り旗艦店の自社ライブで成約する外部配信者の一発でなく天猫国際の自社旗艦店のライブ(店播)を主力に。AIによる配信はコンプライアンス運用を前提に補完として使い、売上は旗艦店へ集約
③継続会員・私域でリピートを積む旗艦店の会員基盤を軸にリピート(復購)と顧客生涯価値(LTV)を設計。大型セールは「順位」でなく「利益・リピート」で評価

この型が機能している実例が、中国最大手の一角である珀莱雅(プロヤ)です。監査済みの2024年年報によれば、同社の主営業務収入はオンライン比率95.06%、うち直営が75.45%(81.22億元)に達し、天猫旗艦店の成約金額が天猫の美妆で初のNo.1となりました。年報自身は、この結果を自社ライブ(店播)だけでなく旗艦店+会員(私域・リピート)+中堅配信者の混合に帰属させています。ただし珀莱雅は売上100億元超の最大手であり、そのまま中堅に当てはめるのは注意が必要です。中堅ブランドは同じ物量を張れないため、「縮小版の型」として、認知・刈り取り・継続の分業だけを踏襲するのが現実的でしょう。

そして先に触れたとおり、日本ブランドは手数料8〜15%の「海外の有名ブランド側」に立てる立場です。言語・法規・信頼担保の面でそもそも外部配信者への依存が難しいことも、逆に「自社ライブ+私域」への順張りを後押しします。市場全体が向かっている方向に沿って、認知は小紅書、刈り取りは旗艦店の自社ライブ、継続は会員・私域、と役割を分けて予算を配分するのが、無理のない勝ち筋です。

「派手な数字」には注意 — うのみにすると危うい実績

ライブコマースの世界は、成功例の派手な数字が独り歩きしやすい領域です。提案や社内共有で使う前に、裏取りをおすすめしたい代表例を挙げておきます。いずれも一次資料での確認が取れず、そのまま使うと信頼を損ないかねないものです。

  • 買手の「月平均GMV◯億元」「単月ピーク◯億元」:初期の数配信の実績は確認できても、その後の「月平均」を裏づける一次資料がないことが多く、誇大になりがちです。
  • 「私域の客単価が通常より40%高い」:単一の運営系メディアの主張にとどまり、集計の期間や基準が不明なものが見られます。数値としては使わないほうが安全です。
  • 「AI数字人でコスト55%削減」:ベンダー訴求の孫引きであることが多く、条件が不明です。
  • プラットフォームの営収・広告収入の規模:媒体間で数字が食い違うケースがあり、断定を避けるべき領域です。

ライブコマースのGMVの多くは、返品前・下単(注文)ベースの自己申告やリークの口径である点にも留意が必要です。第三者の監査値ではないため、定義が変われば絶対値は動きます。数字が食い違うときは、うのみにせず一次資料(企業のIR・公式発表)で確定してから使うのが鉄則です。

まとめ — 逆張りではなく順張りを

2026年の中国ライブコマースは、「トップKOL一発依存」から「ブランド自社ライブ(店播)+小紅書の種草+会員・私域」への構造転換がはっきりしました。トップ層の寄与は一桁台に縮み、自社ライブが外部配信者による販売を追い抜き、認知は小紅書の分散型の種草へ、そしてAIと規制がコスト構造とルールを書き換えています。日本の中堅ブランドにとって、この方向に沿った「認知→旗艦店→私域」の3層設計は、逆張りではなく順張りです。トップ配信者に高い手数料を払って順位を赤字で買う戦い方は、中国ブランドが抜け出そうとしている道でもあります。

とはいえ、小紅書の種草の正規運用、旗艦店の自社ライブの設計・人員、AIによる配信のAI明示・届出(備案)・人による監視、薬機・虚偽宣伝のチェックまでを自社だけで回すのは負担が小さくありません。中国の規制・言語・実務をふまえた運用は、体制を持つパートナーと組むほうが結果的に近道になります。天猫国際での店播・小紅書・会員設計を含めた越境ECの進め方については、関連する2026年の618商戦の結果とトレンド中国越境ECの規制ガイドもあわせてご覧ください。ご相談は下記からお気軽にどうぞ。

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