【2026年】越境ECの出店審査はなぜ厳しくなったのか — 健康食品・食品に求められる「実体の立証」
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2026年に入り、天猫国際をはじめとする中国の越境ECプラットフォームで、食品・健康食品の出店審査が目に見えて厳しくなりました。ただし、厳しくなった理由は法令上の免除枠が撤廃されたからではありません。越境EC(保税区モデル)が輸入品を「個人自用物品」として扱い、初回輸入許可批件・注册・備案の要求が執行されない枠組みは維持されています(健康食品の藍帽子を取得せずに販売できるのも、この扱いの帰結です)。変わったのはプラットフォーム側の審査で、「書類が揃っているか」を見る形式審査から、「そのブランドが海外で本当に開発・製造・販売しているのか」を実体まで確認する審査へと軸足が移りました。この記事では、その転換が起きた経緯と、日本のメーカーが出店準備で押さえておきたい論点を、当局の公表資料と公開情報にもとづいて整理します。
何が変わったのか — 法規制ではなく「審査」が変わった
まず前提を整理します。中国では、一般貿易で化粧品や健康食品を輸入・販売する場合、NMPA(国家薬品監督管理局)への備案・注册や、健康食品としての機能性をうたうための「藍帽子」の取得が必要になります。一方、越境EC(保税区モデル・直郵モデル)では、商品が消費者の「個人自用の輸入物品」とみなされるため、これらが免除されます(出典:商務部等6部門「跨境電子商務零售進口の監管に関する通知」商財発〔2018〕486号)。この制度の枠組みは2026年時点でも変わっていません。
そのため越境ECは長く「一般貿易よりも参入のハードルが低いルート」として説明されてきました。実際に法令上の要求は少ないのですが、この「隙間」を利用して、海外に実体のないブランドを海外ブランドのように見せて売る事業者も現れました。2026年に起きたのは、この点に当局が踏み込み、プラットフォームに対して審査の厳格化を求めたという変化です。つまり免除の枠組み自体は維持されたまま、実務上のハードルが上がったということです。なお法令面がまったく動いていないわけではなく、越境EC小売輸入食品については中国国内の受託企業を置く義務が2026年に追加されています(後述)。
きっかけ:2026年4月、当局が越境ECプラットフォーム3社を約談した
直接のきっかけは、2026年4月2日に行われた当局による約談(ヤオタン=行政指導を伴う呼び出し)です。国務院食品安全弁公室・国家市場監督管理総局・海関総署の3部門が、国営メディア(中央広播電視総台)に報じられた越境EC輸入の健康食品の違法な販売手法をめぐって、プラットフォーム企業3社を約談しました(出典:国家市場監督管理総局公表・2026年4月2日)。
当局の公表では、プラットフォームに対し、反不当競争法・消費者権益保護法・食品安全法などの遵守と主体責任の徹底に加えて、プラットフォーム内の越境EC事業者に対する審査の強化、販売中の商品管理の強化、不良情報への対応強化、消費者からの相談・苦情・通報の窓口整備が求められています。なお約談の対象は、当局の公表本文で抖音(Douyin)・淘天(淘宝天猫)・小紅書(RED)の3社と明示されています(出典:国家市場監督管理総局公表・2026年4月2日)。
あわせて同月10日には、市場監督管理総局办公厅が「ネット食品販売の虚偽宣伝専項整治行動に関する通知」(市監特食発〔2026〕33号)を発出し、2026年4月から半年間の集中的な取り締まりを開始しました。保健食品の広告に「本品は薬物に代わるものではない」といった警示語を明示することなどが求められています。ただしこの通知の本文に越境ECへの言及はありません。対象としてはネット取引プラットフォーム事業者やプラットフォーム内の事業者、ライブ配信の運営者などが広く挙げられており、越境ECを名指しも除外もしていません。「越境EC向けの専項整治が始まった」と紹介されることがありますが、正確には4月2日の約談とこの通知は別の措置です。
「形式審査」から「実質穿透」へ — 具体的に何を見られるのか
約談を受けて、各プラットフォームは食品・健康食品カテゴリの出店審査を強化しました。中国側でこの流れは「形式審核」から「実質穿透」(実体まで見抜く審査)への転換と表現されています。要するに、提出書類が形式的に揃っているかではなく、そのブランドが海外で実際に開発・製造され、現地で実際に売られているのかを裏づけられるかが問われるようになりました。
業界団体が2026年4月末に整理した公開情報によると、たとえば抖音全球購では、原産国の政府当局が発行する適法な生産の証明に加えて、実店舗の販売棚を「一鏡到底」(ワンカットの連続撮影)で撮った実写動画、3店舗以上の具体的な住所と購入レシートの提出が求められるとされています。淘天跨境では、自由販売証明・原産地証明を出店の前提条件として位置づけ、生産に関する契約や工場の商業登記証明などの書類一式を求める運用に変わったと伝えられています(出典:上海跨境電子商務行業協会・2026年4月30日公開情報)。
天猫国際についても、公開されている商家規則(rule.tmall.hk)で《天猫国際商家資質標準》が2026年5月21日に公示され、5月27日に施行されています。食品安全管理の強化と、越境EC小売輸入食品のリコール義務の徹底が目的として示されており、食品・健康食品・母子用品などのカテゴリで出店時の提出資料が更新されました。海外工場の連続撮影動画や海外実店舗での販売実績を示す動画、第三者機関による検査報告といった資料が加わったと複数の公開情報が伝えていますが、要求される資料の詳細はカテゴリごとに異なり、随時改定されます。出店を検討する際は、その時点の商家規則の原文で必ず確認してください(関連:天猫国際の出店費用はいくら? — 保証金・年費・技術サービス料の仕組み)。
なぜ食品・健康食品が標的になったのか — 「假洋牌」という問題
審査の強化が食品・健康食品から始まったのには理由があります。中国側でくり返し問題になってきたのが「假洋牌」(ジャーヤンパイ=偽の海外ブランド)です。海外に登記だけを置き、実際には現地で製造も販売もしていないブランドを、あたかも現地で親しまれている海外ブランドのように見せて売る手法を指します。健康食品は、こうした見せ方の影響を受けやすいカテゴリです。
加えて越境ECには、制度上の事情も重なります。前述のとおり越境ECでは注册・備案の要求が執行されず、藍帽子の取得も求められないため、一般貿易であれば審査の過程で確認される要素が、制度としては確認されないまま流通に乗ります。その代わりに越境ECでは中国国内で保健機能を標榜できない建前になっていますが、実際にはライブ配信や短尺動画、商品詳細ページ、パッケージ表示といった場で医療的な効果をうかがわせる表現が使われる事例が問題視されてきました。制度上の免除と、現場での過剰な訴求のギャップが、当局の関心を集めた構図です。
この「そのブランドは本当に海外のブランドなのか」という問いは、越境ECの信頼そのものに関わる論点で、以前から続いているテーマでもあります(関連:「海外ブランド」「原装進口」はどこまで本当か — 越境ECで問われる"出所"の透明性)。2026年の審査強化は、この問いをプラットフォームの入口で機械的に確認する仕組みへ落とし込んだもの、と捉えるとわかりやすいと思います。
制度側の動き — 海関総署令第280号と越境ECの位置づけ
制度の側でも、輸入食品の管理は動いています。海関総署令第280号《中華人民共和国海関進口食品境外生産企業注册管理規定》が2025年10月14日に公布され、2026年6月1日から施行されました。この規定では、リスクに応じた分類管理が導入され、これまで固定されていた「官方推薦注册」(当局の推薦を経た登録)が必要な輸入食品の目録が、海関総署がリスク評価にもとづいて定め公表する動的な目録に改められています(第6条)。
越境ECとの関係で重要なのは第30条です。「跨境電子商務零售進口食品境外生産企業管理要求,按照有関規定辦理」——越境EC小売輸入の食品については、境外生産企業に対する管理要求は別途の規定によるとされ、本令がそのまま適用されるわけではありません。つまり越境ECが一般貿易と同じ登録義務の枠に入ったわけではない、というのが条文上の建前です。
一方で、プラットフォーム側が独自の判断で、一般貿易に近い水準の証明書類を出店要件として求める動きが出ています。この「法令の要求」と「プラットフォームの要求」のずれが、いま現場でもっとも混乱しやすい部分です。実務では、法令で必須かどうかではなく、出店したいプラットフォームが求めるかどうかで準備の範囲が決まります。なお、食品・健康食品を天猫国際で扱う越境EC事業者には、中国国内の食品生産経営企業1社にリコール業務を委託し、その受託企業の情報を越境ECプラットフォームへ報備する義務も加わっています(関連:【2026年最新】天猫国際の越境EC食品規制 — 中国国内「受託企業」の届出が必須に/中国EC 法規制・コンプライアンス)。
日本のメーカーが着手前に用意しておきたいもの
ここまでを踏まえると、準備しておくべきものの性質が変わったことが見えてきます。なお次の表の右列は、業界団体や各プラットフォームの公開情報から見えている傾向をまとめたもので、当局が一律に定めた要件ではありません。従来は「書類を揃える」作業でしたが、これからは「事業の実体を示す素材を揃える」作業です。自社で製造しているメーカーであれば、そのほとんどはすでに存在するもので、新たに作り出す必要はありません。
| 観点 | 従来の準備(形式審査) | いま求められがちなもの(実質穿透) |
|---|---|---|
| 製造の実体 | 製造委託契約書・工場の所在地情報 | 工場の外観から製造・保管までを通しで撮った動画、工場の登記情報 |
| 販売の実体 | ブランド所有者からの授権書 | 日本国内など原産国の店頭で実際に販売されていることを示す資料 |
| 権利関係 | 商標登録・授権書 | ブランド所有者から出店主体までの授権が途切れず、範囲と有効期限が明記されていること |
| 品質の裏づけ | 成分表・規格書 | 第三者機関による直近の検査報告 |
| 訴求表現 | 商品ページの日本語原稿 | ライブ配信・短尺動画・パッケージ表示まで含めた、保健機能をうたわない表現の統一 |
注意したいのは、最後の「訴求表現」です。出店時の書類が通っても、運用フェーズでライブ配信や商品ページの表現が問題になれば、そこで止まります。越境ECでは保健機能を正面から訴求できない前提を、社内の販促設計とライブ配信の台本にまで落とし込んでおく必要があります。書類の準備と表現の設計は、別々のタスクとして扱ってください。
よくある質問
2026年から越境ECでもNMPAの備案や藍帽子が必要になったのですか?
いいえ。越境EC(保税区モデル・直郵モデル)で輸入品が「個人自用物品」として扱われ、初回輸入許可批件・注册・備案の要求が執行されない枠組みは維持されています(出典:商財発〔2018〕486号 第三項)。健康食品の藍帽子を取得せずに販売できるのもこの枠組みによるものですが、藍帽子という語自体は486号に登場せず、保健機能を標榜できない点は食品の表示・広告規制を別途根拠とする論点です。変わったのは法令ではなく、プラットフォームが出店審査で求める資料と、その確認の深さです。ただし免除は「規制がない」という意味ではなく、中国国内で保健機能を標榜できないという制約は引き続きあります。
なぜ工場や店頭の動画まで求められるのですか?
海外に登記だけを置き、実際には現地で製造も販売もしていないブランド(假洋牌)を見分けるためです。2026年4月2日に当局がプラットフォーム3社を約談し、プラットフォーム内の越境EC事業者への審査強化を求めました。当局の公表資料から読み取れるのはこの「審査強化を求めた」ところまでです(出典:国家市場監督管理総局公表・2026年4月2日)。動画や購入レシートで実体を確認するといった具体的な運用は、業界団体や各プラットフォームの公開情報が伝えているもので、要求される資料はプラットフォーム・カテゴリごとに異なります。実際に何を求められるかは、出店先の現行規則で確認してください。
審査が厳しくなったのは、日本のメーカーにとって不利ですか?
短期的には準備の手間が増えますが、中長期では有利に働く面があります。求められているのは自社工場や取引工場での製造実績、原産国での販売実績、途切れのない授権関係といった、実体のあるメーカーであれば本来もっているものです。実体のない事業者が入りにくくなるぶん、正規のブランドが「本物であること」を示しやすい環境になる、という見方ができます。
海関総署令第280号で、越境ECも工場登録が必須になったのですか?
条文上は必須とされていません。第280号は2026年6月1日施行で、輸入食品の境外生産企業の登録をリスク別の分類管理に改めたものですが、第30条で越境EC小売輸入の食品については別途の規定によるとされています。ただしプラットフォームが独自に同種の証明を求める場合があるため、実務では出店先の規則を基準に判断してください。
出店審査に通るまでの準備は、どのくらい前から始めるべきですか?
一律の期間は示せませんが、動画の撮影、原産国での販売実績の整理、授権書の再取得などは自社だけで完結しない作業が多く、書類の再発行や翻訳・公証が必要になることもあります。求められる資料はカテゴリごとに異なり随時改定されるため、出店したい時期から逆算して、まず現時点の規則で必要資料を確認することから始めるのが確実です。
まとめ — 実体のあるメーカーには、むしろ通りやすい市場になる
2026年の越境ECで起きた変化の中心は、免除枠を撤廃する法令改正ではなく、審査の転換です。当局がプラットフォームに実質的な審査を求め、プラットフォームが出店要件として「製造と販売の実体」を確認するようになりました。越境ECを「規制が緩いから始めやすいルート」として捉えていた事業者にとっては、ハードルが上がった変化です。逆に、自社で作り、日本国内で実際に売っているメーカーにとっては、示すべきものがすでに手元にある変化でもあります(関連:天猫国際(Tmall Global)とは)。
一方で、要求される資料はプラットフォームごと・カテゴリごとに異なり、規則も随時更新されます。二次情報だけを頼りに準備を進めると、揃えたはずの資料が要件を満たさないという事態が起きやすい領域です。当社は、その時点の商家規則にもとづく必要資料の確認から、出店審査、運用時の表現設計まで日本語で支援しています。自社商材でどこまで準備が必要かを確かめたい方は、お気軽にご相談ください。