化粧品・健康食品のNMPA・規制実務 — 越境EC(保税区モデル)なら備案・注册が免除される仕組み
目次
結論から言えば、化粧品や健康食品を中国で売るとき、一般貿易(正式輸入して中国国内で流通させる方式)では、化粧品はNMPA(国家药监局)への注册・備案、健康食品は商品区分に応じて保健食品の登録(注册)または届出(備案)を行い、いわゆる「藍帽子」の表示を取得することが原則として必要です。一方、越境EC(保税区モデルや海外直送)では、商品が「個人が自分用に買った輸入物品」として扱われるため、これらの事前登録が免除されます。本記事では、この一般貿易と越境ECの分岐を、化粧品・健康食品メーカーの意思決定目線で整理します。数値・制度名は公的資料にもとづき、運用で変わり得る点は断定を避けて記載します。
結論:一般貿易は「NMPA登録」「藍帽子」が必要、越境ECは免除される
まず全体像です。同じ商品でも、中国への入れ方が「一般貿易」か「越境EC」かで、事前に求められる規制対応がまったく異なります。この違いを理解することが、中国参入の設計図を描く出発点になります。
| 観点 | 一般貿易(正式輸入・国内流通) | 越境EC(保税区/直郵) |
|---|---|---|
| 商品の位置づけ | 中国国内に正式輸入して流通させる商品 | 消費者が海外から取り寄せる「個人自用物品」 |
| 化粧品 | NMPAへの注册(特殊化粧品)/備案(普通化粧品)が必要 | 注册・備案が免除 |
| 健康食品 | 保健食品の注册・備案(藍帽子)が必要 | 藍帽子の取得は求められない(ただし保健機能の標榜は不可) |
| 中国語ラベル等 | 必要 | 物理的な中文ラベルのない包装でも輸入され得るが、販売ページで中文の電子ラベルを提示し、所定のリスク告知を行う必要がある |
| 立ち上げの速さ | 登録に時間・費用がかかる | 相対的に早く始められる |
ポイントは、越境ECが「規制を無視できる裏道」ではなく、中国が制度として定めた別枠の輸入区分だという点です。だからこそ、日本のブランドが中国市場をまず試すルートとして広く使われています。中国EC全般の法規制の考え方は中国EC 法規制・コンプライアンスでも整理していますので、あわせてご覧ください。
化粧品を一般貿易で入れる場合:NMPAへの注册・備案が必要
化粧品を一般貿易で中国に流通させるには、NMPA(国家药监局)への手続きが必要です。手続きは「注册」と「備案」の2種類があり、どちらになるかは商品の分類で決まります。
根拠となるのは《化粧品監督管理条例》(2021年1月1日施行)です。ここでは、国が特殊化粧品には「注册(当局が事前に安全性を審査して許可する)」、普通化粧品には「備案(届出資料を提出してアーカイブする)」を実施すると定められています(出典:化粧品監督管理条例)。特殊化粧品にあたるのは、染毛・パーマ・シミ/美白・日焼け止め・育毛(防脱発)、および新しい効能を標榜する化粧品で、それ以外はすべて普通化粧品とされています。
日本メーカーが輸入する立場では、注意すべき管轄があります。特殊化粧品と、輸入する普通化粧品は、いずれもNMPA(中央)が注册・備案を管理するとされており(出典:化粧品監督管理条例/NMPA政务服务)、国産の普通化粧品(省級当局に届出)とは扱いが異なります。つまり、日焼け止めや美白美容液のような特殊化粧品は「注册」という重い審査を、その他の輸入化粧品も「備案」という届出を、一般貿易では避けて通れません。
健康食品を一般貿易で入れる場合:「藍帽子」が必要
健康食品(機能性を表示する食品)を一般貿易で正式に売るには、通称「藍帽子」と呼ばれる保健食品の登録(注册)または届出(備案)が必要です。どちらになるかは商品区分によって分かれ、ビタミンやミネラルなどの栄養素補充剤は初回輸入品であっても届出の対象になり得ます(出典:保健食品注册与备案管理办法 第9条)。いずれにしても化粧品以上にハードルが高いとされています。
保健食品を中国で正規に販売するには、注册または備案を経て「藍帽子(蓝帽子)」マークを取得する必要があります。登録・届出にあたっては試験の実施、申請資料の作成、審査対応が必要で、所要期間と費用は商品区分や申請内容によって大きく変わります。所要期間や費用については、公的資料で裏づけられる一律の水準が示されていないため、本記事では具体的な数値を挙げません。実際の見積りは、対象商品の区分を確定させたうえで個別に確認する必要があります。
なぜここまで厳しいのか。健康食品は「効く」と受け取られる商品であり、消費者の健康に直結するため、中国当局が効能・安全性を事前に厳格に確認する仕組みになっているためです。裏を返せば、この藍帽子の壁が、多くの海外健康食品ブランドを越境ECへと向かわせている構造的な理由になっています。
なぜ越境EC(保税区・直郵)だと免除されるのか
越境ECで注册・備案が求められないのは、越境ECの商品が「個人が自分用に買った輸入物品」として監管されるからです。藍帽子(保健食品の登録・届出)を取得せずに販売できるのも、この扱いの帰結です。ただし486号が定めているのは初回輸入許可批件・注册・備案の要求を執行しないという点までで、藍帽子や「普通食品への再分類」を規定した条文ではありません。これは中国が制度として明文化しているルールにもとづきます。
根拠は、商務部・発展改革委・財政部・海関総署・税務総局・市場監管総局の6部門が定めた「越境EC小売輸入の監督管理に関する通知」(商財発〔2018〕486号・2019年1月1日施行)です。この通知には「越境EC小売輸入商品は個人自用の進境物品として監管し、商品の初回輸入許可批件・注册または備案の要求を執行しない」と明記されています(出典:商財発〔2018〕486号、中国政府網)。この一文が、化粧品の備案・注册を越境ECでは求めないという免除の法的根拠です。健康食品の藍帽子についても、同じ扱いの帰結として取得を求められませんが、藍帽子という語そのものは486号の条文には登場しません。
ただし、この免除には満たすべき条件があります。むやみに何でも免除されるわけではありません。
- ポジティブリスト(正面清单)に載っている商品であること。現行は2022年版で、税番ベースで計1,476項目が収載され、2022年3月1日から施行されています(出典:跨境電子商務零售進口商品清単の調整に関する公告、中国政府網)。化粧品や健康食品といった消費財が広く含まれます。
- 取引・支払・物流の電子情報が税関に渡り照合できる状態にあることと、消費者が買った商品は個人自用に限り、再販売しないこと。海関に接続したプラットフォームを使う場合は取引・支払・物流の3情報を突き合わせる「三単照合」が必要で、接続プラットフォームを経由しない取引では、快件・郵政の事業者が取引・支払の電子情報を税関へ送信する別のルートが定められています。
「海外ブランド」「原装進口」という表示の信頼性という論点にもつながります。越境ECは正規の輸入区分である一方、出所の透明性が問われる場面もあり、この点は「海外ブランド」「原装進口」はどこまで本当かで掘り下げています。
免除は「規制ゼロ」ではない — 越境ECに残る制約
ここで誤解を避けたいのは、越境ECは「初期の登録が要らない」だけであって、規制そのものから自由になるわけではない、という点です。運用面では、いくつかの重要な制約が残ります。
第一に、藍帽子のない健康食品について、中国国内での宣伝で保健機能(〇〇に効く、といった機能)を標榜することはできません。これは486号ではなく、登録・届出のない食品の表示・広告に関する規制を根拠とする制約です。効能を打ち出したいなら、結局は藍帽子=一般貿易の世界に戻る必要があります。第二に、個人自用が前提のため、保税倉庫から仕入れて実店舗やスーパーで二次販売することはできず、それを行うには一般貿易としての備案登記が別途必要になるとされています。
さらに近年は、越境EC側にも新しい規制が追加されています。2026年には、食品・健康食品を天猫国際で扱う越境EC事業者に対し、中国国内の食品生産経営企業1社にリコール(回収)業務を委託し、その受託企業の情報を越境ECプラットフォームへ報備する義務が新設されました。詳細は天猫国際の越境EC食品規制 — 中国国内「受託企業」の届出が必須にで解説しています。つまり、越境ECの規制免除は「参入時のハードルが低い」ことを意味するだけで、運用面の規制は年々増えているのが実情です。
メーカーはどちらで入るべきか — 意思決定の整理
では、化粧品・健康食品メーカーは一般貿易と越境EC、どちらで中国に入るべきでしょうか。結論としては、多くの中堅ブランドにとって「まず越境ECで需要を検証し、手応えがあれば一般貿易・藍帽子取得へ進む」という段階設計が現実的です。
| 判断軸 | 越境ECが向くケース | 一般貿易が向くケース |
|---|---|---|
| フェーズ | 市場をまず試したい・立ち上げ期 | 需要が確認でき、本格展開する段階 |
| 効能訴求 | 機能を強く打ち出さなくてよい | 保健功能を正面から訴求したい |
| 販路 | ECモール中心でよい | 実店舗・量販など国内流通も狙う |
| 時間・コスト | 早く・低コストで始めたい | 時間と費用をかけても正規化したい |
天猫国際(Tmall Global)は、この越境ECの主要な入口です。仕組みは天猫国際(Tmall Global)とはで解説しています。重要なのは、越境ECは「登録が要らないから楽」なのではなく、免除の条件・残る制約・年々の規制追加を正しく押さえたうえで使う、という点です。ここを見誤ると、思わぬ出品制限や広告違反につながりかねません。エフカフェでは、アリババ認定の5スターTPとして、越境ECでの立ち上げから、届出や規制変更への対応、将来的な一般貿易・藍帽子取得の検討まで、日本語でご相談いただける体制を整えています。
よくある質問
越境ECなら化粧品のNMPA備案・注册は本当に不要ですか?
はい、越境EC(保税区モデルや海外直送)で販売する場合、商品は「個人自用の輸入物品」として扱われ、化粧品のNMPA備案・注册は原則として免除されます(出典:商財発〔2018〕486号)。ただし、同じ商品を中国国内で一般貿易として正式流通させる場合は、特殊化粧品は注册、普通化粧品は備案が必要になります。
健康食品は越境ECなら「藍帽子」がなくても売れますか?
越境ECでは藍帽子(保健食品の登録・届出)を取得しなくても販売できます。ただし、藍帽子がない商品は中国国内での宣伝で保健功能(機能)を標榜できないという制約があります。機能を正面から訴求したい場合は、一般貿易での藍帽子取得が必要です。
越境ECの免除はどんな商品でも受けられますか?
いいえ。免除を受けるには、ポジティブリスト(2022年版・税番ベースで計1,476項目)に収載された商品であること、取引・支払・物流の電子情報が税関に渡り照合できる状態にあること(海関接続プラットフォーム経由なら三単照合、非接続の取引では快件・郵政事業者による電子情報の送信)、個人自用に限り再販売しないこと、という条件を満たす必要があります(出典:商財発〔2018〕486号)。
越境ECは規制が緩いので、ずっと登録なしで続けられますか?
初期の登録は免除されますが、運用面の規制は追加されています。たとえば2026年には、食品・健康食品を扱う越境EC事業者に、中国国内の受託企業へのリコール業務の委託と、その情報のプラットフォームへの報備が求められるようになりました。免除は「参入時のハードルが低い」ことを意味するもので、規制から自由になるわけではありません。
※本記事は、《化粧品監督管理条例》(2021年1月1日施行)、商務部等6部門「越境EC小売輸入の監督管理に関する通知」(商財発〔2018〕486号・2019年1月1日施行)、《保健食品注册与备案管理办法》、および跨境電子商務零售進口商品清単(2022年版)等の公開情報にもとづき作成しています。保健食品の登録・届出に要する費用と期間は、公的資料で一律の水準が示されていないため本記事では具体的な数値を挙げていません。制度の運用・対象範囲・料率等は改定される可能性があるため、最新の公式情報をあわせてご確認ください。