中国越境EC規制・審査
天猫国際の海外直送(直邮)は「続けられるか」で決まる — モールが毎月見ている指標と2026年9月の規則改定
この記事の要点
天猫国際の海外直送(直邮)は、日本など中国国外の倉庫から注文ごとに個包装で発送する販売方法です。
在庫を中国に事前搬入しないため初期費用は抑えられますが、天猫国際は直送を行う店舗に対し、集荷の速さ・配送クレームの比率・店舗の物流速度スコアなどを継続的に評価しており、基準を満たせない場合は商品の非表示や下架、保証金の凍結、直送の発送口の閉鎖といった措置を取る権利を規則で留保しています(出典:天猫国際《天猫国际海外直邮服务规范》ruleId 5528、2026年9月1日施行)。つまり直送の実質的な分かれ目は、始めるときのコストではなく、運用を続けられるかどうかにあります。
日本語で「直送と保税区モデルの違い」を調べると、配送日数・初期費用・在庫リスク・税制を並べた比較表にはすぐ行き当たります。ただ、そこで語られる直送のデメリットはたいてい「届くのが遅く、顧客満足が下がる」で止まっています。実際に天猫国際へ出店してみると、遅さが跳ね返る先は顧客満足だけではありません。モール内の検索順位や販促キャンペーンの参加資格、そして直送を続ける権限そのものに及びます。
この記事では、天猫国際が公開している規則の原文をもとに、直送を選んだ店舗が何を測られ、未達だと何が起きるのかを整理します。2026年8月25日に公示され、9月1日に施行された規範の改定内容も含めます。仕組みそのものの比較は中国向け越境EC 物流ガイドで扱っているため、ここでは運用の側に絞ります。
天猫国際の「海外直送(直邮)」とは
海外直送は、中国の消費者から注文が入るたびに、日本をはじめとする国外の倉庫から個別に国際発送する方式です。中国国内の保税区倉庫にまとめて商品を運び入れてから発送する保税区モデルと対になる考え方です。
直送には、出店者が自社(または委託先)の倉庫から発送する形と、菜鳥(Cainiao)の日本倉庫に在庫を預けて発送する形があります。当社の運営実務では、これから出店する場合は自社倉庫からの直送は認められにくくなっていると見ており、実際の選択肢は「菜鳥の日本倉庫」か「保税区」の2つになると考えています。この記事は主に、すでに自社倉庫などから直送している店舗が、何を測られ、直送を続けられるかを点検するためのものです。
直送が選ばれてきた理由は分かりやすく、在庫を中国側へ先に送らなくてよい点にあります。商品ごとの売れ行きが読めない立ち上げ期に、まず数十点の注文で反応を見たいという使い方には向いています。一方で、国際輸送と通関を1件ずつ通すため配送日数は長くなりやすく、1件あたりの送料も保税区からの国内配送に比べて高くつきます。
ここまでは多くの解説記事が書いているとおりです。問題はこの先で、天猫国際は直送を「事業者が自由に選べる物流手段」としては扱っておらず、直送サービスを提供する店舗に適用される専用の規範を置いています。それが《天猫国际海外直邮服务规范》で、適用範囲は「天猫国際プラットフォーム(www.tmall.hk)で海外直送サービスを提供する商家」と定められています。
直送を選ぶと、天猫国際は何を見ているのか
同規範の第十条は、直送での発送期間中、天猫国際が店舗の運営状況や商品品質について「考核と管理」を行う権利を持つと定め、その考核項目を名指しで列挙しています。原文では次の4つが挙げられています。
| 考核項目(原文) | 意味するところ |
|---|---|
| 揽收及时率 | 注文に対して、決められた時間内に物流会社へ引き渡せた(集荷された)割合 |
| 消费者物流相关投诉成立订单占比 | 配送に関する消費者クレームのうち、店舗側の非が認められた注文の比率 |
| 店铺体验分-物流速度分 | 店舗の体験スコアのうち、物流速度に関する得点(2026年9月1日の改定で追加) |
| 无假货/劣质问题处罚 | 模倣品・品質不良に関する処罰の有無 |
そして同条は「具体的な目標と考核周期は《海外商家直邮发货考核规则》を参照」と続きます(出典:天猫国際《关于〈天猫国际海外直邮服务规范〉更新公示》ruleId 20010668 の変更前条文)。
ここで正直に書いておくべき点があります。参照先である《海外商家直邮发货考核规则》そのものは、一般公開されている規則データベース(rule.tmall.hk)では閲覧できず、出店者向けの管理画面側にあります。したがって「集荷率が何パーセント以上か」「何か月連続で未達だとどうなるか」といった具体的な数値は、出店後に管理画面で確認するほかありません。本記事では、確認できない数値は挙げないことにします。
とはいえ、数値が分からなくても判断材料としては十分です。公開規則から確実に読み取れるのは、直送は「発送できれば終わり」ではなく、集荷の速さと配送クレームと物流スコアを継続的に測られる運用であるという構造そのものだからです。参入を検討する段階で押さえるべきなのは、まずこの構造です。
店舗の「真实体验分」——毎日つく3〜5点の評価
考核項目に加わった「店铺体验分-物流速度分」は、別の規則である《天猫国际店铺真实体验分规范》(ruleId 20006255、2025年12月15日公示・2026年1月5日施行)で定義されています。これは天猫国際が出店者に付けている全経路の買い手体験評価で、得点は3点から5点の範囲、5点が最高です。
スコアは大きく3つの次元から構成され、それぞれに具体的な指標が置かれています。直送が直撃するのは「物流速度」の3指標です。
| 次元 | 指標 |
|---|---|
| 宝贝质量(商品品質) | 首次品退率(品質理由の返金発生率)/商品差评率(低評価率) |
| 物流速度 | 按时揽收率(時間内の集荷率)/签收及时率(時間内の受領率)/按需送货上门率(希望どおりの受け渡し率) |
| 服务保障(接客・返金) | 旺旺3分钟人工响应率(3分以内の有人応答率)/旺旺满意度/退款处理时长(返金処理の所要時間)/平台求助率(紛争・クレームの発生率) |
注意したいのは、これらの指標がいずれも「近30天」つまり直近30日のローリングで計算される点です(出典:同規範 第五条)。月末で締めてリセットされるのではなく、常に過去30日を引きずります。スコア自体も毎日更新されます(第七条)。
もうひとつ、立ち上げ期の店舗にとって見落としやすい規定があります。同規範 第六条は、直近30日の有効支払注文が30件以上になって初めてスコアを計算・表示するとしており、それ未満の店舗には体験分がつきません。裏を返せば、テスト販売のつもりで小さく始めた店舗は、注文が伸び始めたその瞬間から評価対象に入るということです。売れ始めてから体制を整えるのでは、最初の30日がそのままスコアに載ります。
そして、このスコアがどこで効くのかが重要です。同規範は、体験分が買い手側にも「体验星级」という星の形で、商品品質・物流速度・サービス保障の各得点とともに店舗トップページ・商品詳細ページ・店舗印象ページに表示されると定めています(第九条)。さらに第四章では、体験分の用途として商品検索の並び順、マーケティング活動への申請、優良店舗の選定を挙げています。
配送が遅れることの影響が顧客満足にとどまらない、というのはこの意味です。物流速度の得点が下がれば、消費者が店舗ページで目にする星の数が変わり、検索結果での並びが変わり、大型セールの企画に申請が通るかどうかが変わります。直送を選ぶということは、この3系統の露出を毎日の物流実績に連動させるということでもあります。
なお、各次元の重み付けや、主営類目ごとの得点の刻み方については、規則に数値が書かれていません。原文は「千牛後台(出店者向け管理画面)で確認できる」としており、自社のカテゴリでどの水準が何点になるかは出店後に管理画面で見る形になります。
2026年9月1日の改定で変わった3点
《天猫国际海外直邮服务规范》は2026年8月25日に変更が公示され、2026年9月1日に施行されました(出典:ruleId 20010668)。改定の中身は3か所です。
| 条 | 変更内容 |
|---|---|
| 第七条 | 万国郵便連合のEMS経路以外の直送注文について、通関用に提供された消費者の申告情報が事実でないと判明した場合、プラットフォームは当該店舗の直送権限を閉鎖できる、という一文が追加された |
| 第十条 | 考核項目に「店铺体验分-物流速度分」が追加された(従来は集荷の適時率・配送クレーム成立比率・模倣品/品質不良の処罰の3項目) |
| 第十一条 | 新設。商品詳細ページに表示する発送地と、物流詳細に表示される実際の発送地を一致させることが求められる |
参入を検討する立場から見ると、意味が大きいのは第十条です。これまで直送の考核は、集荷の速さとクレームという「発送側の行為」を測るものでした。そこに物流速度分が入ったことで、消費者の手元に届くまでの体験——受領の適時性や希望どおりの受け渡しまで——が評価に組み込まれたことになります。国際輸送と中国側の通関・国内配送を挟む直送では、この部分は自社だけでは完結しません。パートナーとなる物流事業者の選定が、そのままスコアの問題になります。
第七条の追加については、EMSが使えなくなるといった話ではない点を押さえておく必要があります。規則が定めているのは権限停止の条件であり、経路そのものの禁止ではありません。むしろ条文の構造を読むと、身分証による通関情報の提供という要件が課されているのはEMS以外の経路で、EMS経路のほうが要件は軽く書かれています。
商品ページ側にも表示の義務がある
直送は発送の話だけで終わりません。《天猫国际直邮商品物流信息发布实施细则》(ruleId 11002469、2020年5月29日施行)は、直送商品の商品詳細ページに、物流の経路要素を順番に表示することを求めています。
原文が挙げる7要素は「①支払 ②通関資料のアップロード ③発送地(国) ④海外輸送 ⑤通関 ⑥中国国内輸送 ⑦受領」で、②のみ任意、ほかは必須です。さらに③から⑥の4要素については、輸送日数に関わるためそれぞれ推定所要日数を併記することとされています(原文の例は「海外運輸(予估2-3天)」)。複数国から発送する場合は、その旨を併記します。
また、通関のために消費者側の協力(身分証番号の提供や納税手続き)が必要な場合は、必要な手助けと注意事項を適時に説明することが求められます。中国の越境EC小売輸入では購入者本人の実名情報が通関に使われるため、ここは運用上つまずきやすい箇所です。
罰則も明記されています。7要素の表示が揃っていない、あるいは要素説明の要件を満たしていない場合、天猫国際が指定した是正期限内に直さなければ当該商品は下架または削除されます。原文は、是正を終えたかどうかにかかわらず違反が繰り返される場合は削除する、と続けています。
本文で見落としがちですが、規範 第三条は、商品ページの表示とは別に、出店者向け管理画面の物流詳細ページに、直送1件ごとの真実かつ適時・完全な物流詳細を表示することも求めています。海外倉庫での集荷、海外倉庫からの出庫、幹線到着、通関完了、中国国内配送の集荷、荷物の受領といった各ノードが対象です。第四条では、全経路を通じて国際物流の追跡番号は1つでなければならず、途中での番号の差し替えや虚偽申告を禁じています。
基準を満たせないと何が起きるか
規範 第十二条は、店舗およびその直送物流業者が定められた期限内に基準を満たせない場合に天猫国際が取りうる措置を列挙しています。原文が挙げるのは次の4つです。
- 直送商品の非表示(屏蔽)または下架
- 保証金および商品代金の凍結・控除(冻结/扣划)
- 当該店舗が使っている直送物流業者の発送口の閉鎖
- 天猫国際のマーケティング活動への参加制限
商品が並ばなくなること以上に実務で重いのは、3つ目と4つ目です。発送口が閉じられれば、その物流業者を使った出荷そのものができなくなります。マーケティング活動への参加制限は、618やダブルイレブンといった大型商戦の企画に乗れなくなることを意味します。中国ECでは大型商戦に売上が集中しやすいため、参加できない期間があること自体が年間計画を崩します。
なお、直送の品質管理は指標だけではありません。規範 第八条は倉庫内に商品トレーサビリティコードの運用能力を備えることを求め、第九条は天猫国際が定期的に倉庫と在庫商品の品質検査を行うことへの同意を求めたうえで、その検査費用と人件費は出店者の負担と定めています。倉庫側にも相応の体制と費用が発生する、という前提で見積もる必要があります。
費用の全体像については天猫国際の出店費用の記事で、保証金・年会費・技術サービス料の構造を整理しています。
災害で物流が滞った地域は評価が調整される
ここまでを読むと、機械的に測られて機械的に落とされる制度のように見えるかもしれません。実際にはそうではなく、天猫国際は自然災害で物流が滞った地域について、対象地域と対象期間を指定した調整の公告を出しています。
たとえば2026年8月27日付の《关于自然灾害影响地区发货及考核调整公告》(ruleId 20010702)では、広西・海南・福建、浙江・福建、チベット自治区の指定された市県を対象に、8月23日から30日までの支払注文について到着期限を2日延長するとしています。そのうえで考核側も調整し、対象注文は按时揽收率と按时签收率の集計から除外されると明記しています。
ただし、この救済の作り方に運用上の要点があります。同公告は、プラットフォームが自動的に把握できる注文については評価のうえ賠償を免除するとしつつ、把握できない注文(菜鳥倉庫を使わずに発送した注文など)については、出店者が自ら期限内に申告(报备)する必要があるとしています。申告の窓口まで公告に記載されています。
つまり免責は自動では降ってきません。中国側の災害情報を追い、自社の該当注文を特定し、期限内に申告する担当者が必要だということです。日本側に中国語で規則の公告を追える人がいるか、あるいは運営代行にその役割を明確に持たせているか。直送を続けられるかどうかは、最終的にはここに帰着します。
直送を続けるなら、社内で点検しておきたいこと
以上を踏まえると、自社倉庫などからの直送を続けるかどうかの社内議論で置くべき論点は、送料と配送日数だけではないことが見えてきます。次の5点を点検しておくと、評価が下がってから慌てずに済みます。
- 集荷までの社内リードタイムを何時間に置くか。考核の起点は発送ではなく集荷です。受注から物流会社への引き渡しまでの工程を、休日や連休を含めて設計できるか。
- 物流事業者をスコアの観点で選べているか。物流速度分には受領の適時性まで含まれます。運賃だけでなく、中国国内配送の最終工程まで含めた実績で比較する。
- 商品ページの物流表示を誰が作り、誰が更新するか。7要素と推定日数の表示は商品単位の作業です。商品数が増えたときに破綻しない運用にしておく。
- 中国側の公告を追う担当を決めているか。災害時の免責は申告制です。追う人がいない体制では、避けられたはずの減点を負います。
- 注文が伸びたあとの切り替え条件を先に決めているか。体験分は直近30日の有効注文が30件を超えると算出が始まります。どの水準まで伸びたら菜鳥の日本倉庫や保税区モデルへの移行・併用を検討するのか、数字で決めておく。
直送そのものが不利な選択だと言いたいわけではありません。在庫を中国に先に動かさずに売れる利点は実在します。ただ、その利点は「続けられる体制があること」を前提にしています。体制を用意できないまま続けると、売れ始めた時期に評価が下がり、検索順位と商戦参加という最も効く部分を失うことになりかねません。これから出店する場合の物流の決め方を含め、参入全体の決める順番については越境ECの始め方で整理しています。
よくある質問
Q. 天猫国際の直送には、何日以内に発送するというルールがありますか。
公開されている《天猫国际海外直邮服务规范》には、日数そのものの規定はありません。同規範が求めているのは、注文ごとに予定到着時間を提示し、その時間内に届けることと、集荷の適時率などの指標を満たすことです。具体的な目標値と考核周期は出店者向けの《海外商家直邮发货考核规则》に定められており、公開規則の側には数値が示されていません。
Q. 直送の基準を満たせないと、すぐに出店できなくなりますか。
規範 第十二条が定めているのは、直送商品の非表示・下架、保証金や商品代金の凍結・控除、直送物流業者の発送口の閉鎖、マーケティング活動への参加制限です。店舗そのものの閉鎖ではありませんが、直送での販売を続けられなくなる可能性はあります。
Q. EMSで発送していれば問題ありませんか。
経路によって要件は異なります。規範 第七条は、万国郵便連合のEMS経路以外の直送注文について、通関用に消費者の有効な身分証の提供を求め、申告情報が事実でないと判明した場合はプラットフォームが直送権限を閉鎖できるとしています。EMS経路のほうが要件は軽いものの、集荷や受領の適時性といった指標はどの経路でも同じように測られます。
Q. 店舗の体験スコアは消費者から見えますか。
見えます。《天猫国际店铺真实体验分规范》第九条は、体験分を星の形で、商品品質・物流速度・サービス保障の各得点とともに店舗トップページ・商品詳細ページ・店舗印象ページに表示すると定めています。さらに商品検索の並び順やマーケティング活動の申請にも使われます。
Q. 返品された場合の返金額はどう扱われますか。
返品・返金は直送規範とは別の規則系統で定められています。返金額の内訳や税費の負担区分については天猫国際の返品・返金ルールで扱っています。
まとめ
天猫国際の海外直送は、在庫を中国に先に送らずに販売できる方式です。ただし天猫国際の側から見れば、直送は「継続的に評価する対象」です。集荷の適時率、配送クレームの成立比率、店舗体験分の物流速度分、模倣品・品質不良の処罰という4項目が考核項目として規範に明記され、2026年9月1日の改定では物流速度分が新たに加わりました。
そして体験分は、消費者に星として見えるだけでなく、商品検索の並び順とマーケティング活動の申請に使われます。基準を満たせない場合には、商品の非表示や下架、保証金の凍結、発送口の閉鎖、商戦への参加制限といった措置が規則上用意されています。
比較すべきは初期費用と配送日数だけではありません。受注から集荷までの工程を設計できるか、物流事業者を速度の実績で選べるか、商品ページの物流表示を維持できるか、中国側の公告を追って免責を申告できるか。この4つに社内で答えが出せるなら、直送は続けられます。答えが出せないなら、菜鳥の日本倉庫や保税区への切り替えを早めに検討したほうが安全です。なお、これから出店する場合は、当社の運営実務では自社倉庫からの直送はそもそも認められにくく、菜鳥の日本倉庫か保税区かの選択になると見ています。
なお、ここで挙げた要件はいずれも天猫国際が随時改定します。実際に判断される段階では、最新の規則を改めて確認してください。天猫国際そのものの位置づけについては天猫国際(Tmall Global)とはもあわせてご覧ください。